日本に古くから伝わるボードゲームの一種で、多くの棋士が自らの頭を使って競い合う「将棋」。最年少の14歳でプロ入りし、現在多くのタイトルを獲得している藤井聡太をきっかけに将棋を知り始めたという人も多いのではないでしょうか。今回この記事では将棋のタイトル戦でよく聞く用語、将棋の封じ手について解説していきます。

将棋の封じ手とは

将棋の封じ手とは、長時間の対局で2日目に対局が持ち越される際に、その日の最終手番の人が次に差す手を紙に書いて封筒に入れ厳重に保管する制度のことを言います。封じ手の制度によって、手番の棋士が対局中断中も夜通し考えることを防ぐため、持ち時間制の公平性を保つことが可能です。

封じ手の流れ

封じ手の記入から翌日までの流れについて紹介していきます。

対局終了時刻が来たら封じ手を始める

1日目の対局終了時刻はタイトル戦によって異なりますが、名人戦の場合「18時30分」、竜王戦・王位戦・王将戦の場合「18時」になります。

封じ手の時刻になると、手番の棋士は立会人に対して次の手を封じる意思を表示。または、立会人が手番の棋士に対して封じ手を記入する旨を伝えます。

この時、記録係はすみやかに時計を止めて持ち時間の消費を防ぎます。

記録係が封じ手用紙に各情報を記入する

記録係は、封じ手の用紙には、対局している人の名前やタイトル名、現時点の局面を記載します。将棋では、封じ手用紙を予備用に2枚用意します。

記録係は、封じ手の時刻前に各情報を記入しておき、対局者を待たせないよう準備していることが多いでしょう。過去には封じ手の時刻5分前に指して、記録係が局面を再度書き直すこともあったそうです。

手番の棋士は封じ手を記入する

封じ手を記入する棋士は、誰にも見られない様に別室へ移動してから記入します。赤いペンを使用して、動かす駒屋持ち駒にマルを付けて、矢印で指す場所を指定します。わかりやすいように追加で棋譜符号を書く人もいます。駒が成るかならないかを表す場面では局面番外に成か不成かを記載。記載が無い場合は成として扱われます。

封じ手用紙は2枚あるのでどちらも記入します。もし2つの封じ手が違う手だった場合、過去にはお互い様ということで笑って訂正し、対局を続行したそうです。悪意のないミスであれば穏便に対局を続けるでしょう。

署名して保管する

封じ手が記載された用紙は封入され、対局者の2人は封筒裏の閉じ口に赤ペンで署名。対局者の署名の他に、立会人なども署名します。

署名が完了したら、2つある封筒をそれぞれ保管。1つは立会人が所有する形で保管し、もう1つは対局しているホテルや旅館にある金庫に保管されます。

翌日に封じ手を開封して対局を再開する

翌日、対局者は記録係の読み上げに従い前日の手順の通りに封じ手前の局面まで駒を進めます。

封じ手直前の場面を再現できたら、立会人は封じ手が入った封筒を開封。封じ手を読みあげます。この時、用紙を相手の対局者にも見せて封じ手が2枚とも間違えていないことを確認します。

手番だった対局者は封じ手を盤面に反映。止めていた時計を再開し2日目の対局が始まります。

封じ手の戦略

封じ手には様々な戦略が存在します。ここではその戦略について紹介します。

複数の手がある局面で封じ手する

封じ手の戦略として、一般的には「複数の候補が存在する局面で封じ手する」のが望ましいと言われています。相手側は次に打つ手が何かわからないため、あらゆる選択肢を一晩中考えないといけません。

封じ手側は、自分が次に打つ手を知っていることから、その後の展開を深く考え続けることが可能です。しかし、選択肢が多すぎる場面で封じ手した際は、選択した手が良いか悪いかを考えてしまい、その後の展開を集中して考えられないことがあるそうです。選択肢が多すぎるのも良くないのがわかります。

必打の手を利用する

封じ手の戦略として、一般的に「必ず打つとわかる手を封じるのは良くない」と言われています。その理由は、次に打つ手がわかる場合、相手は対応する手を一晩中考えられるからです。

しかし、必打となる手に対応する手も必打となる場合、封じた側がその後の展開を一晩中考えることが可能なので、有利と言えるでしょう。

持ち時間を利用する

封じ手に合わせて持ち時間を上手く利用するのもテクニックの1つです。自分が封じ手する手番になるよう調節したり、

難しい局面で相手を封じ手の手番にして悩ませたりします。

暗黙の了解として封じ手の時刻15分前になると指さないのが一般的ですが、封じ手時刻5分前に指したとしても特にルール違反ではありません。

対する封じ手側も、封じ手の時刻が来てから長考することがあります。2025年10月3日の竜王戦第1局1日目では、佐々木勇気八段が封じ手時刻を過ぎても長考し、40分後に封じたことが話題になりました。

封じ手の有利不利

封じ手をする側は、有利と不利どちらなのでしょうか。この議論については結論が付いておらず、棋士によって意見が分かれているため、明確に有利不利は無いと考えられます。

2008年に発売した月刊誌「将棋世界」にて、羽生善治・森内俊之・谷川浩司・佐藤康光・渡辺明・藤井猛のプロ棋士6人に封じ手の戦略や駆け引きについて質問。羽生・森内・谷川の3人は封じ手の有利不利について気にしていないが、佐藤・渡辺・藤井の3人は封じ手の駆け引きがあると明言しています。中でも渡辺と藤井の2人は「封じる側が有利」と話しています。

なぜ有利と思うのか

渡辺明と藤井猛の2人が「封じ手する側が有利」と思っている理由が「封じ手する側が先に局面を読めるから有利」「相手は封じ手以外の展開も読まないといけず無駄読みになるから」と話しています。

実際に渡辺明は封じ手を利用して、選択肢が多い場面で封じ手したり、相手が想定しない意外な手を指して勝利を得ています。

まとめ

今回は、将棋のタイトル戦でよく聞く将棋の封じ手とはどのようなことか解説しました。

プロの対局の中で、タイトル戦は2日かけて長時間で行われます。1日目の対局終了時刻は18時や18時半と決まっており、その時刻に手番を務めている対局者が次に指す手を封じ手に記入します。この制度によって、手番の棋士が夜通し考察することを防ぐので、持ち時間制の公平性を保つことが可能です。

実際に対局で記入された封じ手は、ファンの人向けに販売もしています。興味のある方は、好きな棋士の名前が書かれた封じ手を購入してみてはいかがでしょうか。

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周平
こんにちは!「将棋&囲碁ライフ」を運営している周平です。 将棋と囲碁に興味を持ったのはほんの数年前からでした。あるアニメがきっかけで将棋に興味を持ち、そこから囲碁にも派生して、すっかり将棋と囲碁の世界にハマってしまいました。 私が学んできた将棋&囲碁の知識や魅力を、少しでも皆さんに発信できたら嬉しく思います。